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文献

紛争解決学の学際的アプローチを進めるための参考文献紹介

※本文献紹介は、安川文朗・石原明子編『現代社会と紛争解決学』、ナカニシヤ出版、2014 の「あとがきにかえて」の参考文献紹介のもと原稿をもとに紹介しておりますことをお断りいたします(石原明子)

紛争解決学とは何かを知るための教科書や基本文献

Contemporary Conflict Resolution 3rd Ed.(Oliver Ramsbotham他著)(『現代世界の紛争解決学』宮本香代訳)。この本は、平和学研究の世界的拠点の一つである英国のブラッドフォード大学なの研究者ら(元)が書いた紛争解決学全般に関するもっとも包括的な教科書。世界の紛争解決学系の大学院でテキストとして多く用いられている。メディエーションや交渉といった限られた方法論だけではなく、紛争解決(紛争変容)や平和構築に必要な様々なアプローチの理論等を包括的に紹介しており、学説史の概観にも有益。日本語版は第2版まであり、Conflict Transformationを「紛争移行」と訳すなど訳に独自性があるものの、日本語読者には全体像をつかむ助けとなる。

また、法学の分野で紛争解決の学問的進展に直接貢献するものとして、『紛争解決学』(廣田尚久著、信山社2002)と、『紛争解決システムの新展開』(吉田勇編著、成文堂2009)の2冊をあげておく。両書とも、いわゆる裁判外紛争解決(ADR)の基本的考え方やその意義・有効性・限界などを、法社会学をはじめとする法学諸分野の視点から理解するうえで多くの示唆を与える基本書である。またこれらの書物と並行して、「司法制度改革とADR」(小島武司著:『ジュリスト』No.1207,12頁)や『日本人の法意識』(川島武宜著:岩波新書1967)を参照されると、日本におけるADR議論の流れと本質的課題を読み解くことができるだろう。

簡単に読める紛争変容・平和構築の実践教科書シリーズ

Little Book of Justice and Peacebuildingシリーズ

紛争変容のレデラックや修復的正義のハワード・ゼアらが教鞭をとってきた米国のイースタンメノナイト大学からでているもの。「Restorative Justice」(『責任と癒し―修復的正義の実践ガイド』築地書館)、「Conflict Transformation」(『敵対から共生へ』東京ミッション研究所)、「Strategic Peacebuilding」「Trauma healing」「Strategic Negotiation」など、紛争変容と平和構築の実践に必要な様々なアプローチをとりあげた全16冊のシリーズ(2013年末時点)。実践に関心のある方にも、研究に関心のある方にも役立つ良書。上記の最初の二冊のみ日本語に訳されているが、短く簡単な英語で書かれているので、英語でも読みやすい。

現代紛争解決学の古典

1960~70年代から成立し始めた現代の紛争解決学の古典としては、社会心理学やゲーム理論の視点から現代の紛争解決につながる理論的な根拠を示したモートン・ドイッチ(Morton Deutch)のThe Resolution of Conflict『紛争解決の心理学』、交渉やメディエーションの理論については、利害(interest)志向の交渉(いわゆるウィンウィン解決)を提案した古典であるGetting to Yes: How To Negotiate Agreement Without Giving In (ロジャー・フィッシャーRoger Fisher他著)『ハーバード流交渉術』、トラウンスフォーマティヴ・モデルを提案したPromise of Mediation—Transformative Approach of Mediation(ロバート・ブッシュRobert Bush他著)などがある。

修復的正義

修復的正義について日本語で読める文献のうち、初学者のための入門書として、上記Little Book SeriesのRestorative Justiceの和訳である『責任と癒し―修復的正義の実践ガイド』(ハワード・ゼア)が、またそのもととなった古典的文献としてChanging Lens-- A New Focus for Crime and Justice (同著者)の和訳『修復的司法とは何か』(西村春夫他訳)がある。また修復的正義の哲学の幅広い応用については、『ソーシャルワークと修復的正義―癒やしと回復をもたらす対話、調停、和解のための理論と実践』(エリザベス・ベックElisabeth Beck他編著、林浩康 監訳)や『修復的アプローチとソーシャルワーク-調和的な関係構築への手がかり』(山下英三郎著)などがある。

調停(メディエーション)・交渉やコンフリクト・マネジメント(手法面)

メディエーションや交渉についてわかりやすく読める入門書として『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』(鈴木 有香、 八代 京子著)がある。また、メディエーションの考えによる調停プロセスの原則についての包括的な手引きとして『調停ハンドブック』(小林レビン久子)が有益である。コンフリクト・マネジメントについては、医療現場のコンフリクトを取り扱った『医療コンフリクト・マネジメント』(中西淑美・和田仁孝著)や、水資源管理の事例を分析した『コンフリクト・マネジメント:水資源の社会リスク』(萩原良巳・坂本麻衣子著、勁草書房2006)がある。いずれも医療や資源以外の問題にも応用可能な議論を多数含んでいる。メディエーションや紛争解決プロセスに関する中級者向けの論集としては、『調停のプロセス』(ムーア著)、『紛争管理論』(レビン小林久子訳・編、モートン・ドイッチ/ピーター・T・コールマン/エリック・C・マーカス編)が必読であろう。

紛争解決と社会科学(政治学・経済学・社会心理学)

紛争解決と社会心理学は、長い関係性をもってきた。特に近年、心理実験を応用して紛争当事者の行動や意思決定を探る研究が多数発表されてきた(本書5章、8章の参考文献を参照のこと)。ここでは、比較的最近の日本語で読めるものとして、『葛藤と紛争の社会心理学』(大渕憲一編)、Intergroup Conflict and Their Resolutions: A Social Psychological Perspective(ダニエル・バル-タル(Daniel Bar-Tal)著『紛争と平和構築の社会心理学―集団間の葛藤とその解決』などをあげておく。

また、紛争解決と社会科学との間にも多くの連携があり、社会心理学の場合と同様、複数の経済主体にかかわる葛藤やジレンマ、紛争の可能性とその解決メカニズムについて、多くの先端的な研究がおこなわれている。それらの研究が紛争解決にどのように貢献するかを俯瞰的に理解するうえでは、以下の3点が参考になる。すなわち、The Strategy of Conflict(トーマス;シェリングThomas C. Shelling著1960) 『紛争の戦略:ゲーム理論のエッセンス』(河野勝・真淵勝監修、勁草書房2008)、The Complexity of Cooperation(ロバート・アクセルロッド Robert Axelrod著1997)『対立と協調の科学:エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明』(寺野隆雄監訳、ダイヤモンド社2003)、そしてThe Bounds of Reason(ハーバート・ギンタスHerbert Gintis著2009)『ゲーム理論による社会科学の統合』(成田悠輔他訳、NTT出版2011)である。シェリングは、2008年度ノーベル経済学賞を受賞したゲーム理論の専門家であり、交渉や紛争の問題をはじめて真正面からゲーム理論を用いて解明しようとした、文字通りのパイオニアである。ただし本書の理解には入門レベルのゲーム理論の理解が不可欠である。またアクセルロッドは、1回限りの「囚人のジレンマ」モデルを「繰り返しゲーム」に拡張し、そこで人々がとる「しっぺ返し」戦略がゲームの安定的な解になりうることを、コンピュータ実験により明らかにしたことで知られている。人の「意思決定」のメカニズムを実験的に示すことで、個人間だけでなく世界規模での紛争問題(たとえば第二次大戦)をも考察する道具を提供している。最後にギンタスの本は、書名どおりゲーム理論のエッセンスを駆使して社会科学や行動科学(政治学、経済学、心理学、生物学など)の再統合を模索した意欲的な労作であり、ゲーム理論と紛争解決との根源的な関わりを理解するにはうってつけである。しかし本書もある程度ゲーム理論や行動科学の諸理論を理解していることが前提となっており、初学者には少々骨が折れるかもしれない。

また、国際政治と紛争解決についての比較的読みやすい良書として、Understanding Global Conflict and Cooperation(ジョセフ・ナイ、デビッド・ウエルチJoseph S. Nye, David A. Welch 2002 ) 『国際紛争:理論と歴史』(田中明彦、村田晃嗣訳、有斐閣2011)と、『戦争と和解の日英関係史』(小菅信子、ヒューゴ・ドブソン編著、法政大学出版局2011)の2書をあげておく。

紛争解決と組織開発

組織論の中でも、紛争解決学と親和性のあるいくつかの理論や本がある。『学習する組織――システム思考で未来を創造する』(ピーター・センゲPeter M. Senge 著, 枝廣 淳子他訳)、ポジティブな体験等に焦点をあてながら組織開発を進める手法で組織の平和構築にもつながる手法Appreciative Inquiryについての『ポジティブ・チェンジ~主体性と組織力を高めるAI』(ダイアナ・ホイットニーDiana Whitney)など。英語ではあるが、イースタンメノナイト大学のLittle Books Seriesの中の『Healthy Organization』(ディビッド・ブルーベーカーDavid Brubaker著)も入門書として有益である。

組織開発そのものではないが、地域や組織のメンバー間での「合意形成」をどのように引き出すかについて、理論と実践とがバランスよく配置された文献として、『合意形成学』(猪原健弘編著、勁草書房2011)は参考になるだろう。

プロセス指向心理学での紛争解決

本論集では扱われていませんが、日本で比較的人気が高く、かつ、東洋思想の影響も受けた手法として「プロセス指向心理学(プロセス・ワーク)」による紛争ファシリテーションの方法があります。それについては、いずれもアーノルド・ミンデルArnold Mindell著で『紛争の心理学』『大地の心理学―心ある道を生きるアウェアネス』などがあります。

※取り上げた文献は、紛争解決学の理解と進展という視点から編者が選定したものであり、既存の各学問分野を代表する重要文献を網羅的に紹介したものではないことをお断りしておきたい。

紹介した本のリスト

  • Bal-tal, D., 2012, Intergroup Conflicts and Their Resolution: A Social Psychological Perspective (Frontiers of Social Psychology, Psychology Press
    D.バル-タル著、2012、 熊谷 智博、大渕 憲一訳 『紛争と平和構築の社会心理学―集団間の葛藤とその解決』 北大路書房
  • Beck, E., N.P.Kropf , and P.B.Leonard, 2010, Social Work and Restorative Justice: Skills for Dialogue, Peacemaking, and Reconciliation, Oxford University Press
    E.ベック、N.P. クロフ著, 編集、H.B. レオナルド著, 編集、2012、 林 浩康監修, 訳、大竹 智、大原 天青、小長井 賀與、竹原 幸太、中島 和郎、村尾 泰弘、山下 英三郎訳『ソーシャルワークと修復的正義』 明石書店
  • Brubaker,D., R.H.Zimmerman, 2009, The Little Book of Healthy Organizations: Tools for Understanding and Transforming Your Organization , Good Books
  • Bush, R. A. B., J. P. Folger, 2004, The Promise of Mediation: The Transformative Approach to Conflict, Jossey Bass
  • Center for Justice and Peacebuilding: Little Books of Justice and Peacebuilding (Series)
    http://www.emu.edu/cjp/publications/little-books/
  • Deutsch, M., N. Haven, 1973, The Resolution of Conflict: Constructive and Destructive Processes, Yale University Press
    M.ドイッチ他著、1995、杉田千鶴子訳  『紛争解決の心理学』 ミネルヴァ書房
  • Deutsch,M., P.T.Coleman, and E.C. Marcus, The Handbook of Conflict Resolution: Theory and Practice 2nd Ed., Jossey-Bass
    M.ドイッチ著、P.T.コールマン著、2003、レビン小林久子編・訳 『紛争管理論』日本加除出版
  • Fisher, R., W.L. Ury, 1991, Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In 2nd Ed., Penguin Books
    R.フィッシャー他著、1998、金山 宣夫、浅井 和子訳 『ハーバード流交渉術』阪急コミュニケーションズ
  • Mindell,A., 1995, Sitting in the Fire: Large Group Transformation Using Conflict and Diversity Lao Tse Press
    A.ミンデル著、2001、青木 聡訳、永沢 哲監修、『紛争の心理学』 講談社
  • Mindell,A., 2007, Earth-Based Psychology 1st Ed., Lao Tse Press
    A.ミンデル著、 2009、青木 聡、富士見 幸雄訳 『大地の心理学―心ある道を生きるアウェアネス』コスモスライブラリー
    Moore,C.W., 2003, The Mediation Process: Practical Strategies for Resolving Conflict 3rd Ed., Jossey-Bass
    C.W.ムーア著、2008、レビン小林久子訳、 『調停のプロセス―紛争解決に向けた実践的戦略』日本加除出版
  • Ramsbotham, O., T. Woodhouse, and H.Miall, 2011, Contemporary Conflict Resolution 3rd Ed., Polity
    O.ラムズボサム他著、2011、宮本香代訳 『現代世界の紛争解決学』 明石書店 (上記第2版の訳)
  • Senge,P.M., 2010, The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization ,Crown Business
    P.M.セング著、2011、枝廣 淳子、小田 理一郎、中小路 佳代子訳
    『学習する組織――システム思考で未来を創造する』英治出版
  • Whiney,D., A.T.Bloom, and D.Cooperrider, 2010, The Power of Appreciative Inquiry: A Practical Guide to Positive Change: A Practical Guide to Positive Change 2nd Ed., Berrett-Koehler Publishers
    D.ホイットニー著、2006、ヒューマンバリュー訳、編集, 監修、 『ポジティブ・チェンジ~主体性と組織力を高めるAI』ヒューマンバリュー
  • Winslade,J., G.D.Monk, 2008, Practicing Narrative Mediation: Loosening the Grip of Conflict 2nd Ed., Jossey-Bass
    J.ウィンズレイド、G.モンク著、2010、国重 浩一訳、, バーナード 紫訳 『ナラティヴ・メディエーション―調停・仲裁・対立解決への新しいアプローチ』 北大路書房
  • Zehr, H., 2002, Little Book of Restorative Justice, Good Books
    H.ゼア著、2008 森田 ゆり訳 『責任と癒し―修復的正義の実践ガイド』 築地書館
  • Zehr, H., 2012, Changing Lenses: A New Focus for Crime and Justice 3rd Ed., Herald Press
    H.ゼア著、2003、西村 春夫、細井 洋子,高橋 則夫訳 『修復的司法とは何か―応報から関係修復へ』新泉社
  • 大渕憲一著、1997、 『紛争解決の社会心理学』 ナカニシヤ出版
  • 鈴木 有香著、八代 京子監修、2004 、『交渉とミディエーション―協調的問題解決のためのコミュニケーション』  三修社
  • 成文堂 RJ叢書 シリーズ 全8冊(2013年12月時点)
    高橋 則著、 2003 、『修復的司法の探求』 (RJ叢書) など
  • 中西淑美、和田 仁孝著 、2011、 『医療コンフリクト・マネジメント』 シーニュ(第1版)
  • 山下 英三郎著、2012、『修復的アプローチとソーシャルワーク―調和的な関係構築への手がかり』明石書店
  • レビン小林久子著、1998、 『調停者ハンドブック―調停の理念と技法』信山社出版